鋼の熱処理の基礎(種類と記号を紹介)

機械加工

この記事は金属材料には必要不可欠な熱処理についての基礎的な種類について説明します。金属加工に興味がある方に向けて書きました。
この記事を最後まで読むと、基本的な熱処理の種類が理解できます。

熱処理(ねつしょり、heat treatment)とは、形状加工と同様に素材の完成度を高める方法であり、加熱・冷却により素材の性質を変化させる処理のことである。金属などを加熱・冷却して硬度や性質を変化させること。

ウィキペディア(Wikipedia)より引用

熱処理は金属材料に必要とする性質を得る目的で行われ、その目的に応じて適当な温度方法で加熱、冷却をする処理です。

本来なら詳しい説明は必要なのですが、今回はザックリとした説明にしたいので、具体的な温度や時間など詳しい手順は省略します。

焼ならし(annealing)

焼ならしは熱処理記号「HA」、別名「焼鈍(しょうどん)」とも呼ばれます。
鋼を軟らかくする熱処理で、組織を均一にする効果もあり加工しやすくなります。
金属を適当な温度までな加熱して、一定時間保持してから徐冷します。
(炉の中でゆっくり冷却)
この熱処理には、目的によって多くの種類があります。今回は3つ紹介します。

完全焼なまし(full annealing)

熱処理記号「HFA」、「本なまし」とも呼ばれます。
最も一般的な焼なまし法で、完全に軟化させ、内部応力の除去、その後の加工を容易にする目的です。
この熱処理でパーライト組織が得られます。

応力除去焼なまし(stress relieving)

熱処理記号「HAR」
鍛造、鋳造、冷間加工、溶接などの内部応力を取り除くための熱処理になります。

応力とは

応力とは、外からの力に応じて生じる内部の抵抗する力です。

溶接などの温度変化で伸び縮みしたり、冷間加工などでも、応力を溜め込むことになります。内部に応力が残った状態だと、長い時間をかけて変形したり(経年変化)、加工したときにも変形して不具合の原因になります。

球状化焼なまし(spheroidizing)

熱処理記号「HAS」
鋼の中の炭化物を球状化させる熱処理で、加工が容易になります。
高炭素合金鋼、工具鋼等の焼入前処理や、冷間鍛造加工の前処理の目的です。

焼ならし(normalizing)

焼ならしの熱処理記号は「HNR」、別名「焼準(しょうじゅん)」とも呼ばれ、組織を均一にします
金属を適当な温度までな加熱して、一定時間保持してから空冷します。
(炉から出して放置)
完全焼なましで得られるパーライト組織より細かく緻密なパーライト組織になります。

鍛造品や鋳造品の加熱による影響で粗大化した組織が焼ならしにより微細化され機械的性質が向上する。また後に機械加工の必要な場合にも切削性が良好にします。

焼入れ(quenching)

焼入れの熱処理記号は「HQ
鋼を硬くする目的で行われる熱処理です硬くなりますが同時にもろくもなります
炭素量が0.3%以下の鋼は焼入れ効果は期待できません。また、0.6%以上になると硬度自体はほとんど変わらなくなります。
適切な温度まで加熱後、急激に冷却します。冷却剤は水や油や溶融金属系など必要な冷却速度により適当なものを使います。

炭素鋼の硬さは基本的に炭素の含有量で決まりますが、焼入れでは炭素の含有量は変化しません。なぜ硬くなるのでしょうか?

焼入れの疑問

答えは素材の組織が変化することにより硬くなります。組織は電子顕微鏡でないと見えません。焼入れするとマルテンサイト組織に変わります。マルテンサイト組織は硬く脆い性質があり通常は、後に説明する焼もどしとセットで行われます

質量効果

焼入れすると、冷却剤に接する表面は冷却速度が速くなりますが、素材の中心になるにつれ冷却速度がは遅くなります。同じ材質でも断面寸法が大きくなると内部の冷却速度が小さくなるため硬度が減少して焼きが十分に入らなくなります。このような素材の質量(大きさ)が焼入れの効果に影響を及ぼすことを質量効果と呼び、内部まで焼きが入らないことを質量効果が大きいといいます。

一般的に炭素鋼は焼き入れをする場合、質量効果が大きいため小物に使われ、大物には質量効果の小さい合金鋼や特殊鋼が使われます。

焼もどし(tempering)

焼もどしは熱処理記号「HT
焼入れで得られるマルテンサイト組織は硬く脆い不安定な組織で、焼もどしをすることにより靭性が与えられ内部応力の除去の効果もあります。焼もどし温度で硬さを調整しますが、焼もどし脆性ぜいせいと呼ばれる温度領域があり、その名の通り脆くなるため焼戻しの温度や滞留時間には注意が必要です。

焼もどしでマルテンサイト組織からトル-スタイト組織へ変化し、トルースタイト組織からソルバイト組織へ変化します。焼もどし温度が低いとトルースタイト、高いとソルバイト組織になります。

焼もどしによる組織の変化

まとめ:鋼の熱処理の基礎的な種類

焼なまし
軟化、組織の均一にして、応力除去などの加工しやすくする目的。
適当な温度まで加熱して徐冷、パーライト組織が得られる。

焼ならし
組織が均一化、微細化され機械的性質の向上する。
適当な温度まで加熱して空冷、細かいパーライト組織が得られる。

焼入れ
硬くする目的で行われるが同時に脆くもなる。
適当な温度まで加熱して急冷、マルテンサイト組織が得られる。

焼もどし
不安定なマルテンサイト組織を安定化させる。硬さと靭性の調整をする。
適当な温度まで加熱して冷却、トルースタイト又はソルバイト組織が得られる。

金属加工には熱処理は必要不可欠な技術です。加工の前後に熱処理を行うことも多いと思います。参考にしていただければ幸いです。

最後まで読んでいただきありがとうございます。
終わりです。