【書評No.3】「ファナックとインテルの戦略」工作機械産業50年の革新史

お疲れ様です。 セドヤ です。

今回は本を紹介します。

日本のものづくりを支えた
 ファナックと
  インテルの戦略
   「工作機械産業」50年の革新史

この手の本は読んだことがありませんでしたが、私自身、仕事でファナックの工作機械を使っていることもあり、試しに買って読んでみました。

ファナックとインテルの戦略」はこんな内容です。

  • ものづくりは欠かせない工作機械や工場の自動化(FA・ファクトリーオートメーション)のリーダー企業の ファナック とCMでもおなじみ、パソコンのMPU(マイクロプロセッサ・超小型演算装置)の開発する インテル 、2つの異なる業界のトップ企業の歴史
  • 1960年代に世界一だったアメリカの工作機械産業が低迷し、日本は逆に急成長、ついに逆転した原因について
  • 日本は過去から学べることがあるのではないか?

ファナックとインテルの戦略」はこんな人にお勧めす。

  • 企業の歴史に興味がある。
  • 工作機械業界に関係する仕事をしている。
  • 日本の製造業の動向に注目している。
Amazon.co.jp

著者

柴田友厚(しばた ともあつ)

1959年北海道札幌市生まれ。
東北大学大学院経済学研究科教授。京都大学理学部卒業。ファナック株式会社、笹川平和財団、香川大学大学院教授を経て2011年4月から現職。筑波大学大学院経営学修士(MBA)、東京大学大学院先端学際工学博士課程修了。博士(学術)

主な著書

  • 「イノベーションの法則性」(中央経済社、2015年)
  • 「日本企業のすり合わせ能力」(NTT出版、2012年)
  • 『モジュール・ダイナミクス』(白桃書房、2008年)

本の概要

ファナックの歴史、NC装置の開発史

ファナックは富士通の新規事業としてスタートします。

1956年、富士通信機製造株式会社(現在富士通、以降本書では富士通を称する)の技術担当常務だった尾見半左右(おみ はんぞう)は、当時主力事業だったコミュニケーション分野以外にコンピューターとコントロールという新しい事業分野に進出することを決め、池田敏雄と稲葉清右衛門をそれぞれのプロジェクトリーダーに任命した。

P48より抜粋

尾見半左右さんのような部下に対し「好きにやってみろ、責任は俺がとる」的な人はカッコイイですよね。

結果、コンピューター分野は現在の富士通の主力事業へ成長、コントロール分野は分離独立して社名ファナックとなり、NC( Numerical Control・数値制御)装置やFAで世界もトップ企業になっています。

もちろん、すぐに結果が出たわけではありません。
1952年にアメリカでNCフライス盤が開発され、日本でも研究が始まっており、稲葉さんのチームもNC装置の開発をスタートします。

NC工作機械はこれまでなかった製品ですから、需要自体少ない状態でした。9年間の赤字を経てようやく黒字化します。
市場の成長により生産台数も増え富士通社内でも高収益部門になります。そして1972年に富士通から分離独立して「富士通ファナック」が誕生します。

インテルの歴史、MPUの開発と事業転換

インテルは半導体集積回路の発明者のひとりでもある ロバート・ノイス や ゴードン・ムーア らによって1968年に設立され、半導体メモリのトップ企業となり、その後MPUへ変換していきます。

MPU(マイクロプロセッサ)は日本の電卓メーカーのビジコン社と共同開発した電卓用汎用LSI(大規模集積回路)から生まれたもので、1971年に世界初のMPU「4004」が完成しました。

現在では家電やスマートホン、産業用ロボットなど幅広く使われているMPUですが、その原型がこの「4004」です。

しかし、開発時点ではビジコン社との契約上、MPUを外販する権利はインテルにはなく、MPUの将来性を考え、ビジコン社と交渉をして開発費の返却などを条件に外販の許可を得ることができました。

そのMPUの将来性は現場からの提言だったそうです。現場の意見を受け入れた経営判断がなければ インテルの未来は違ったものになっていたと思います。

MPUの説明を本書より引用します。

MPUとはソフトウエアで制御される半導体デバイスで、ソフトウエアを変更することで様々な機能が実現できる小型汎用コンピューターのようなものということになるだろう。

P94より抜粋

その後、MPUはキャシュ・レジスター(商店の精算機、レジ)に採用され、ファナックのNC装置、そして1981年にIBMのパソコンに採用されインテルは急成長していきます。

メモリ事業で成功したインテルですが、半導体製造工程の標準化が進むにつれ、競争力を失い撤退。半導体メモリ企業からMPU企業へ変わりました。

ファナックとインテルの遭遇

異業種の両社ですが接点はどこにあったのでしょうか?

NCの柔軟性を求めていたファナックはインテルのMPUにたどり着きます。コンピューター産業よりも6年も早く工作機械のNC装置に搭載されたのです。

当時のNC装置はハードワイヤードNC方式と呼ばれる初期のNC技術で基本的機能がハードウェアで組み上げられていました。加工データの読み込みは紙テープを使っていました。当然、劣化や紛失の恐れがあります。

これに限界を感じていたファナックが模索していたのがソフトワイヤードNCで現在の CNC(コンピューター数値制御)の原型です。NC装置自体で加工プログラムの作成、編集ができます。

MPUを採用するにあたっては工場内の過酷な環境に耐えられるかが大きな問題でしたが両社の緊密な連携で問題を解決し、インテルのMPU8086を搭載したファナックのCNC装置システム6が完成します。

MPU8086の不具合について本書より引用します。

MPUのサプライヤーであるインテルの問題であるのも関わらず、システム6の設計回路図という極めて重要な機密情報を、ファナックはインテルに公開したのだ。それがなければ、8086の不具合修正は大きく遅れ、結果としてシステム6の完成は大幅に遅れていたはずである。

P136より抜粋

日米の工作機械産業の逆転した原因の分析

工作機械は輸出規制の対象であるとこからも想像できるようにその国の技術基盤です。

1960年代に米国の工作機械産業は世界一の存在でしたが次第に衰退します。1980年代には日本が急成長し、立場が逆転します。現在でも日本は世界を牽引する工作機械産業先進国です。

日米では顧客のニーズに違いがあり、両国の工作機械メーカーはニーズに合わせた製品を供給します。にもかかわらず、このような逆転が起ってしまうのです。

  • 米国での主な顧客は大手自動車メーカーで従来通りの安定性や切削性能が大事。
  • 日本では中小企業が多く価格や大きさ、柔軟性が大事。

また、日米では工作機械メーカー自体も違いがありました。

  • 米国では豊富な資金力を背景にNC装置、工作機械本体の両方を自社開発が進む。
    →自社の機械に最適なNC装置になる。メーカーごとの個性が強く互換性がなくなる。
  • 日本では資金力が乏しく、従来の工作機械本体に専念、NC装置の開発はファナックなどが担い分業化される。
    →多くの工作機械に使えるNC装置となる。インターフェースのルール化され合理化が進む。

環境の変化に適応したのが日本の工作機械産業だったように思います。

工作機械のデジタル化

現在では工作機械にもパソコンのような情報処理機能が取り込まれています。工作機械メーカーとしては新しい森精機が業界の変革期にどのように成長したのかが紹介されています。

歴史から未来にどう生かせるか

この本では現在の車の自動運転技術をめぐる状況と工作機械で起こったイノベーションとの類似性が指摘されています。トヨタなどの自動車メーカーと自動運転装置の開発に参入しようとしているグーグル。

また、日本が優位性を保っている工作機械業界も中国に動向が気になるところです。
中国は国を上げた製造業強化戦略「中国製造2025」を打ち出しており、主要産業の自動車、航空宇宙、半導体などに加えて、市場規模の小さい工作機械も入っています。

「ファナックとインテルの戦略」の感想

個人的に企業の歴史には興味があるのでファナックとインテルはもちろんですが、富士通の新規事業への意欲や、MPUの開発にかかわったのが日本の電卓メーカーのビジコン社、森精機の成長の要因など知らなかった知識がたくさん詰まっており楽しく読めました。

日米の工作機械産業の逆転現象は他の業界にも起こり得るではないか?現在の自動運転技術の開発競争で主導権を握るのはこれまで通りのトヨタなど自動車メーカーか、それともグーグルなど自動運転専門の企業になるのか興味がわいきました。

二刀流マネジメントの「活用」と「探索」は私自身のこの本から得た最も大きい収穫でした。

既存技術の「活用」と新技術の「探索」を同時にバランスよく行う「二刀流の原理」を組織体系として埋め込むにはどうしたらよいのか、ということが組織戦略上の重要な課題になる。

P128より抜粋

個人レベルの仕事や自己啓発にも当てはまる考え方で、既存能力の「活用」だけでは成長という意味では小さい思います。別のスキルを身に着ける「探索」することで大きな飛躍が期待できるように思います。

まとめ:「ファナックとインテルの戦略」

私の場合、この本は単純に企業の歴史に興味があり読んでみたのですが、すでに説明した通りNC装置とMPUの革新(イノベーション)について詳しくは書かれています。

世代に関係なく製造業にかかわる人、これから就職する人、この本から得るものに違いはあると思いますが、「歴史から何を学び未来にどう生かすのか」、を考えさせてくれる本でした。

Amazon.co.jp

最後まで読んでいただきありがとうございます。
以上で終わりです。