今回はNCプログラムの工具径補正の使い方をプログラム例を交えながら説明します。
- 工具径補正機能を使うけど思うような工具経路にならない。
- 工具径補正を使わずプログラミングしている。
- 使う工具径が変わるとプログラムの工具経路を打ち直している。
こんな悩みを持っている人に、機械加工歴20年のセドヤが丁寧に説明します。
工具径補正はマシニングセンタやNCフライス盤の初心者の人は少し難しいと思われがちな機能ですが、考え方さえ理解してしまえば、簡単に使えます。しかも、確実にプログラミングが楽になります。
最後まで読んでもらうと工具径補正を使った基本的なNCプログラムの作り方と、注意点が理解できます。
工具径補正とは
工具径補正機能とは、工具径の補正を自動で行う機能です。この機能を使うことで輪郭に補正かけた工具経路を作ることができます。
プログラムフォーマット
※今回はXY平面の説明をします。
G41 X_ Y_ Z_ D_
G42 X_ Y_ Z_ D_
G40
データ | 説明 |
G41 | 進行方向の左側に補正 ダウンカット ※1 |
G42 | 進行方向の右側に補正 アップカット ※1 |
G40 | 工具径補正キャンセル |
X Y Z | 座標値 ※2 |
D | 補正番号 |
※1 G41 G42 はモーダルなGコードです。
ダウンカット、アップカットについてはこちら⇓
※2 G17平面の時は X_Y_ 、G18平面の時は Z_ X_ G19平面の時は Y_Z_
第3軸には補正はかかりません。
平面選択についてはこちら⇓
工具径補正のメリットとデメリット
- 工具径補正機能のメリット
- 輪郭形状の座標をそのままプログラムに打てばよいので工具径を計算しなくてよい。
- 形状の大きさの微調整をするとき、補正値だけでよい。
- 工具径補正機能のデメリット
- プログラムを打つ量が少し増える。
- イメージ通りの工具経路をプログラミングするには、慣れが必要。
G41、G42のどちらを使えばいいの?
ほとんどの工具はダウンカットを推奨してます。なので、G41を使ってください。私もほぼG41を使います。G42を使うときは切りくずの排出に問題がある場合と、工具経路を短くしたいときです。
工具径補正のプログラム例
それでは実際にプログラムを作って説明します。(G17平面)
下の図の①から②に向かって加工します。
プログラム例
径補正機能を使わない例
G1 G90 X-135. Y-35.
X-120.
Y70.
X35.
Y85.
補正機能G41 を使う例
G1 G90 X-135. Y-35.
G41 X-100. D1
Y50.
X35.
G40 Y85.
工具径補正機能を使うと輪郭の座標をそのまま入力できます。
進行方向の左側に補正したいのでG41を使います。
ちなみに同じ加工をG42(右側補正)で行いたいときは逆の工具経路をたどります。
補正機能G42を使う例
②から①へ向かって加工します。
G1 G90 X35. Y85.
G42 Y50. D1
X-100.
Y-35.
G40 X-135.
円弧補間と工具径補正
円弧補間(G2、G3)に工具径補正を使うこともできます。
円弧補間のプログラム例
φ50の穴(内径)加工例
G1 G90 X0 Y0
G41 Y25. D1
G3 J-25.
G1 G40 Y0
φ50の軸(外径)加工例
G1 G90 X0 Y40.
G41 Y25. D1
G2 J-25.
G1 G40 Y40.
円弧補間のG2、G3と径補正のG41、G42と2つのGコードを使うの少し難しくなります。最後のキャンセル(G40)のブロックの G1 を忘れやすいので気を付けてください。
円弧補間についてはこちら⇓
工具径補正の3つの注意点
径補正を理解するには少し理屈を説明します。
工具径補正は必ず先読みをします。進行方向がわからないと補正方向が決まらないからです。先に説明した通り進行方向の左側補正がG41ですが、言い換える進行角度に対してG41は+90°、G42 は-90°で補正するともいえます。座標の計算も三角関数で可能です。角度がついた補正を自分で計算してみると径補正の理解が深まります。
三角関数については⇓
1.補正をかける位置に注意
工具径補正の開始点はXYの座標を入力しますが、どちらかを省略すると直前の位置に補正します。
よい例
G1 G90 X-30. Y30.
G41 X0 Y0 D1
X100. Y100.
G40 X70.Y130.
悪い例
G1 G90 X-30. Y30.
G41 X0 D1 ←(X0 Y30,)
X100. Y100.
G40 X70. ←(X70. Y100.)
悪い例でマーカーのブロックはY座標が省略されています。
よい例と悪い例では違う工具経路になります。角度がある輪郭に径補正をかける場合はXYの座標を入力するように心がけましょう。
2.アプローチで喰い込む
工具径補正の開始位置、終了位置(アプローチ)を適切な位置にしないとアラームが出たり、喰い込みが発生したりします。
3.切り込み不足
下の図のように段差が工具径より小さいと正しく補正がかかりません。
工具径補正値(補正量)をプログラムで入力
工具径補正は通常、NC装置に保存しておきますが、プログラムで入力することもできます。
面取り加工や、粗加工と仕上げ加工で補正値を使い分けたいとき便利な機能です。
- FANUC
- G10 L12 P_補正番号 R_ 補正値
- G10 L12 P_補正番号 R_ 補正値
- OSP
- VTOFD[_補正番号] = _補正値 (システム変数)
- VTOFD[_補正番号] = _補正値 (システム変数)
- TOSNUC
- G58 D_補正番号 R_ 補正値
※詳しくは、お使いのNC装置の取り扱い説明書で確認してください。
まとめ:NCプログラムの【工具径補正】の使い方
プログラムフォーマット
G41 X_ Y_ Z_ D_
G42 X_ Y_ Z_ D_
G40
データ | 説明 |
G41 | 進行方向の左側に補正 ダウンカット |
G42 | 進行方向の右側に補正 アップカット |
G40 | 工具径補正キャンセル |
X Y Z | 座標値 |
D | 補正番号 |
いかがでしたか?
NCのプログラムを作るとき工具径補正が「いかに便利な機能か」が分かっていただけたと思います。
普段使ってない方は是非使って見てください。
本の紹介
本から得られる基本的な知識も多くあります。先輩から指導を受けて「なんとなく」身に付けたことでも、本を読んで「そういうことだったのか!」と納得できる部分があります。指導する立場になったとき役立つ知識になります。
以上で終わりです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。